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12時20分から「Wいいとも」など、いくつかの番組をリモコンでスキャンしながら並行して見た後、昼食を摂りに仕事場近くの食堂に行く。 そこから戻り、2時ごろから午後の原稿執筆にかかる。
時々休憩を取っては夕方6時までワープロの前にいる。 6時から民放のニュース番組を見る。
企業小説を書いているからには、日々のニュースは把握しておかなくてはいけないという強迫観念が働いている。 その後夕食を摂りに外出し、8時くらいからワープロに向かう。
間に休憩も取るが、終わるのは11時くらい。 11時からのニュース番組を見て、そのまま仕事場に泊まることもしばしばある。
毎日これだけの時間を執筆していたら、凄い量産作家になっているだろうが、現実には毎日そんなことができるわけはない。 執筆以外に、仕事の関連だけでも、まず取材がある。

1人に会えば最低でも半日は費やす。 編集者との打ち合わせや飲み会がある。
これも夕方からの時間をすっかり占める。 資料読みや資料整理もある。
仕事以外の付き合いもあるし、1人でやりたい様々なこともある。 たとえば時々、近所の碁会所の奥さんから、「いま強い人が来ているのですけれど、お忙しいですか?」と電話がかかる(私は現在、囲碁のアマチュア6段くらいで、この8、9年の間ここの碁会所のご主人に指導を受けて2、3ランク強くなっている)。
そのとき、よっぽどのっぴきならない締め切りでも抱えていれば別だが、締め切りに2、3時間でもゆとりがあると思えば、出かけていってしまう。 好敵手には滅多に会えないし、囲碁が飯より好きだからだ。
ところが2、3時間のはずがもう一局もう一局と4、5時間になってしまい、後で睡眠時間を削らなくてはならない羽目になることが結構ある。 あるいは飲み過ぎて仕事場に泊まり込んだ翌日など、目が覚めると昼過ぎで「しまった」と飛び起きることもある。
いや起きられればいい方で、宿酔いで起きることができず、また蒲団に沈み込んでしまうこともある。 そうなると執筆の予定はどんどん遅れる。
さて、いささかルーズな日常を紹介した上で冒頭の質問に答えようと思うのだが、さらにこんな迂回路を辿ろう。 物書きになった初期のころだった。
ある日ふと気づくと、貯金の残高の数字が驚くほど小さくなっていた。 もっと正確にいうと、少し前から気にはなっていたのだが、ある日、仕事場の家賃分を引き出して通帳の記帳を見たら、その直前に電話料や何やかに自動引き落しされていて、急に残高がさみしくなっているのを知ったのだ。
そのとき、突然、切実にそう思った。 それまでは自分の物書きとしての今後の方向などを考え、それに合わせて仕事を取捨選択するプランなどを立てていたのに、頼りない蓄えの残りを見たら、たちまちとにかく何か仕事をして金を稼がなければ、となった。

サラリーマンは何によって管理されているのだろうか?普通はそれぞれの上司によってと思われているだろう。 当のサラリーマン自身も、自分はうるさい上司に管理されていると思っているかもしれない。
実際は、上司の管理以前にサラリーマンは誰でも、自分で自分の行動を律する、いわば「自己管理」をしている。 「遅刻をしないこと」とか、「立場ごとのノルマを果たすべく努力すること」など、日常的にいちいち上司に管理などされていないだろう。
なぜ「自己管理」するかといえば、しなければ、彼は職場の仲間から非難の目で見られ異端視され、会社での居心地が悪くなるし、それと並行して上司からも注意され、彼の評価が悪くなる。 その結果、出世に響いたり左遷させられたり、下手をするとクビにさえなる。
つまり自分にとって不愉快な処遇を受け、自分と家族の暮らしが苦しくなる、と分かっているからだ。 だから普通のサラリーマンは、一挙手一投足を上司から管理されなくても、「自己管理」しながら仕事を進める。
自由業や自営業にとっても、こうした事情は似たようなものである。 口うるさい上司や意地悪な目を向けてくる同僚がいなくても、きちんと仕事をさせる最も基本的な条件は、「経済生活をある水準で成り立たせ、自己評価を守らなければならない」という強迫観念のような意識である。
もう少し具体的にいえば、親子5人で月々に50万円の生活費が要る、これだけは稼がなくてはならない、とすれば、その収入に見合うだけの仕事を引き受け、きちんとこなしていこうと強く思うことである。 物書きの仕事に即してさらに具体的にいえば、そのくらいの収入となる仕事は、日常的にいろいろな形で進行している。
そのどれにも必ず締め切り(まったく延ばしようもないものから、相当ゆとりのあるものまで様々だが)があって、守らなければ、結局はその仕事がなくなり、収入の道がそのぶん細くなる。 サラリーマンが遅刻やノルマの未達成を続ければ自分の立場が悪くなるから、せっせと遠距離通勤や得意先回りに精を出すように、物書きも締め切りを破り質の低い原稿を書けば自分の立場が悪くなると思って、一生懸命に締め切りまでにある水準以上の仕事をしようと「自己管理」をするのである。
サラリーマンが想像するほど困難なことではない。 むしろサラリーマンは遅刻が多くても営業成績が悪くても、左遷や昇進の後れはあっても、クビにはなかなかならない。
それに比べ、物書きは締め切りを守らないで雑誌に穴を開ければ、ほぼ確実にそこの仕事は打ち切られるし、質の低い原稿を書き続けていれば、遅かれ早かれ注文先が少なくなり、暮らせなくなるから、ある水準で「自己管理」をしなければならないという動機はサラリーマンより強く働く。 普通のサラリーマンの「自己管理」は、見てくれに偏りがちである。

ペイや昇進が、仕事とはそんなに直接的につながっていないから、「自己管理」の基準はとりあえず、上司や同僚など周囲の納得ということになるからだ。 タイムカードを定時前に押しさえすれば、昼間、営業の外回りで映画館に入っても、喫茶店で昼寝をしていてもなかなか見破られない。
上司や同僚にいいわけのできる最低の営業成績さえ達成すれば、一応その時期を切り抜けることができる。 物書きのような自由業では、「自己管理」は、見てくれではなく中身本位となる。
朝は何時から仕事を始めてもいいし、先にいったように昼寝をしてもいい。 私も時々昼寝をするが、仕掛けたつもりの目覚まし時計が鳴らず、真っ暗になってから目が覚めて「いけね」と青くなることもある。
春先には昼飯を食べた後、近くの荒川まで桜を見に行ってくることだって自由だ。 ×月×日までに50枚の短編小説(当然ある水準以上のもの)を書く、という編集者との約束は、真夜中や旗日にワープロに向かってでも、守らないわけにはいかない。
幾つかの締め切りが重なり、連日のように自分の限度1杯の原稿枚数を書いていると、集中力がすっかりなくなることがある。 それでも書かないわけにいかない。
すると1時間書いては10分休み、また1時間書いては20分休むということを繰り返すことがある。 そんなとき3分間リングに上がっては、コーナーに戻って1分間休むボクサーを思い浮かべることがある。
ここまで説明した上で私に「自己管理が難しいでしょう?」と聞いた人に逆に聞きたい。 「いったいどちらの自己管理の方が難しいでしょうか?」と。

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